昨今、ワーキングホリデーについての様々な情報が溢れているが、ワーキングホリデーに行くべきか否かという短絡的な議論が多く、データに基づいた議論はあまり行われていないようである。そこで本稿では、主な日本人によるワーキングホリデー受け入れ国であるオーストラリア、ニュージーランド、カナダについて、公開データに基づいた分析を行い、読者の判断材料となることを目指す。

まず、結論から話そう。

3か国とも景気の減速や人口急増により労働市場全体は冷え込みつつある傾向にあるが、医療・建設・技術職などの特定分野では依然として深刻な人材不足が続く「二極化」の状況にある。

オーストラリアの労働市場に見える「二極化」

この傾向が最も明確に見えるのがオーストラリアである。政府統計では、州ごと・職種ごとに労働力の需給バランスが公開されており、それを見ると飲食・接客業と専門職のコントラストがはっきり分かる。

例えば、レストランにおける接客を担う waiter 職種に関しては、Northern Territory 以外の全州で労働力が飽和しており、この職種を目指すことは困難である可能性が高い。

一方、カフェにおける代表的な職種である barista についても、すべての州で労働力が飽和している。対照的に、学位や経験が重視される engineer 職種については、ほぼすべての州で労働力が不足しており、需要が極めて高い状態にある。そしてこの傾向は、カナダとニュージーランドにおいても同様である可能性が高い。

「英語力要件」はないが、現実には重要

続いて、多くの人が気になるであろう英語力についてである。三か国とも、政府は working holiday visa について、公的には英語力要件を定めていない。永住権やその他のビザに関しては IELTS 基準で 6.0、TOEIC 換算で 700 点以上を要求されるケースが多いが、ワーキングホリデーに関しては、少なくとも年齢要件を除いては特段の制約はない。

しかし、現実問題として英語力はこれら三か国で生活・就労する上で切っても切れない指標である。豪州政府の公式ホームページによれば、functional English、すなわち実務上の英語能力として求められるのは IELTS 4.5、TOEIC 換算で 500 点以上が要求されるとある。

むろん、執筆者としても、これらの点数がすべてを決定するとは考えていない。コミュニケーション能力は時に点数に表れないものであることは明確である。しかし、それでも豪州政府の公式レポート「Migrants Skills Mismatch(Australian Industrial Transformation Institute)」において報告されている通り、英語能力、特にスピーキング能力と労働市場への参加、すなわち就労率には明確に関係があるとされている。

英語力不足の状態での渡航は、厳しい雇用情勢と相まって、自身の望む職種への就労を困難にする可能性が高いと言えるだろう。

「カフェで働く」だけがワーホリではない

ここまで、雇用情勢の似通ったワーキングホリデーにおける人気の高い三か国を中心に論じてきたが、結論として言えるのは、これまで一般的にイメージされてきた「カフェやレストランでの就労」は難しくなってきており、仮にそこを目指すのであれば相応の英語力と運が必要になる、ということだ。

では、このような状況において、ワーキングホリデーに行くべきではないのだろうか? そうとは限らない。先述の労働市場の状況でも明らかになっている通り、すべての職種で労働力が余っているわけではない。一部の職種では、人手不足に悲鳴をあげている。

カフェやレストランで就労するというのはいかにも「ワーホリらしい」姿に見えるかもしれない。しかし、それだけが世界のすべてではない。エンジニア、看護師、介護、建設、農業──職業は無数にあり、その中には各国で構造的な人手不足に陥っている分野も多い。

それらの不足する職種の多くは専門知識や学位を要求されるが、日本国内で資格や経験を積み、その上でワーキングホリデーやその他のビザを用いて海外でのキャリア形成につなげる道も十分にあり得る。

要は、「本当に自分が得意なことは何か」「受け入れ国で何が求められているのか」を冷静に見極め、そのギャップをどう埋めていくかを考えることが重要なのである。

参考リンク(本文中で触れた資料など)

  • 各国政府の Occupation Shortage List(オーストラリア・カナダ・ニュージーランド)
  • Working Holiday Visa に関する各国政府の公式情報
  • Functional English(オーストラリア内務省による英語レベルの定義)
  • Migrants Skills Mismatch(Australian Industrial Transformation Institute)