世界のエネルギー事情に関して、国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、世界のエネルギー状況に関する報告書「World Energy Outlook 2025」を発表した。

発表された報告書を独自に分析し、日本の役割を考えた。

エネルギー安全保障が最重要

ウクライナ戦争やスエズ運河周辺でのフーシ派による攻撃などの地政学リスクに加え、LNG・電力インフラ・サイバー攻撃・気候災害、さらに技術革新とICT産業の伸びに伴うレアアースなど「重要鉱物」への依存が、世界の経済安全保障上の大きな脅威になっている。日本に関しても、情報通信産業が大きく伸長しているため、集積回路などに使用するレアアースの確保が急務であると考えられる。なお、サプライチェーン多様化の観点から、米国や豪州における鉱物資源の開発に日本の大手企業が参画しており、政府もバックアップを続けていることは注目に値する。

電力の時代と新たなボトルネック

2035年までに世界の電力需要は約4割増加すると予測され、特に家電・空調・EV・データセンター/AIなどが牽引するとされている。それに付随して発電投資は進んでいるものの、送電網・蓄電・柔軟性確保への投資が遅れ、渋滞・出力抑制・停電リスクが高まっている。特にこれらの送電インフラの普及は途上国の大きな課題となっている。しかし、中央アフリカなどの地域では、道路などのインフラも不十分な状態であり、電力網の拡充には国際援助などが必須となるであろう。しかしながら、トランプ米政権を筆頭に、世界の主要援助ドナー国は内向きな傾向を強めており、途上国の電力網の拡充において、中国やロシアなどの役割が拡大していくものと考えられる。

新興国と重要鉱物がゲームチェンジャー

需要の伸びの中心は中国からインド・東南アジア・中東・アフリカなど新興国へ移る。重要鉱物精製は中国に約70%集中しており、供給途絶・経済的威圧のリスクが大きい。それゆえ、資源サプライチェーンの多様化と備蓄・国際的な協力枠組みの構築が急務と考えられる。現在、米国が国際秩序の担い手の役割を縮小している中で、先日のTICADのように、日本が先頭に立って国際協調の枠組みを組織していくことが必要とされるだろう。

エネルギーアクセスと気候目標

いまも約7.3億人が電気なし、約20億人が健康被害の大きい調理手段、具体的には木炭などに依存している。気候に関しても、現状の政策のままだと2100年の温暖化は約2.5°Cに達すると予想され、1.5°C目標は「一時的な超過が不可避」と評価されている。

結論:安全保障と脱炭素の両立

再エネ・電化・省エネ・メタン削減・原子力・低炭素燃料・CCUSなど、排出削減の手段自体はよく分かっておりコストも下がっている。しかし、とりわけ新興国・途上国での投資が足りず、この「投資ギャップ」を埋れるかどうかが、エネルギー安全保障と気候リスクの両方を左右するとされる。途上国にありがちであるのは、産業開発の目標と環境指標の矛盾であり、この投資ギャップを埋める上では、先進国による援助が必須であり、先述の国際協調の文脈からも、日本が先頭に立って環境投資を強化していくことが求められるだろう。

参考

https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2025

https://https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/11/2d2828b6db255544.html