イスラエル軍機がレバノン首都ベイルートを空爆し、数十人が死傷する事態となった。これは昨年11月の和平合意への違反である可能性が高く、中東情勢は再び緊迫の度合いを強めている。
事態が深刻化すれば、長期的には日本国内のエネルギー価格にも影響が及ぶ可能性がある。
イスラエル軍による攻撃
イスラエル政府は声明で、11月23日、イスラエル軍が数ヶ月ぶりにレバノンの首都ベイルート南部(ダヒエ地区)を空爆し、イスラム教シーア派組織ヒズボラの参謀長であるハイサム・アリ・タバタバイ(Haitham Ali al-Tabtabai)氏を殺害したと発表した。レバノン保健省によると、人口密集地にあるアパートが直撃され、少なくとも5人が死亡、28人が負傷したとされる。なお、現場は人口密集地であることから、被害は今後さらに増加する可能性がある。
関係勢力の反応
当事者であるヒズボラはタバタバイ氏の死亡を確認し、イスラエルが「越えてはならない一線(レッドライン)」を越えたと非難している。また、ヒズボラをバックアップしているとされるイラン政府も声明を発表し、2024年11月に発効した停戦合意に対する違反であるとして、強い言葉で非難している。これに対し、イスラエル政府は「テロリスト組織の再軍備を進めるヒズボラ幹部を排除した」と声明し、攻撃を全面的に肯定している。
これまでの経緯
レバノンとイスラエルの関係が悪化した主なきっかけは、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻であり、これに対抗するために結成されたのがヒズボラであり、以来、2006年の大規模な戦争(第2次レバノン戦争)などを経て、散発的な衝突を繰り返してきた。複数のテロ事件への関与も確認されており、元レバノン首相、ラフィーク・ハリーリ氏を含む20人以上が爆弾によって殺害された事件で、ヒズボラの構成員は有罪を宣告されている。そして2023年10月にパレスチナのハマスがイスラエルを奇襲した翌日、ヒズボラが「ハマスへの連帯」を掲げてイスラエル攻撃を開始。事実上の戦争状態に入った。しかし2024年9月イスラエルが攻勢を強め、ヒズボラの最高指導者ナスララ師を暗殺。ヒズボラは大打撃を受け、11月には米欧の仲介でイスラエルとの和平に合意した。
今後の情勢
現時点ではヒズボラ側もイラン側も明確な対抗措置を実施していないが、仮に軍事的な報復が実施された場合、中東地域の安定が再び損なわれ、紅海やホルムズ海峡の通航の自由が侵される懸念から、エネルギー価格がさらに高騰する可能性がある。また、スエズ運河の通航収入に頼るエジプトにとっても、回復の兆しを見せていたスエズ運河の利用が控えられる事態になれば、国家財政への打撃は避けられないだろう。また、パレスチナ自治区における停戦により、紅海での攻撃を停止した、ヒズボラとの関係が強い、イエメンのフーシ派に関しても、イランのコントロールが低下している可能性が示唆されていることから、イスラエルの動きを受けて、何らかの行動に単独で踏み切る可能性も否定できない状況となり、中東情勢には暗雲が立ち込めている。
参考
https://www.gov.il/en/pages/pmo-announcement-23-nov-2025
https://www.bbc.com/news/articles/cn81j54xjx1o
https://en.mfa.ir/portal/newsview/778650
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-13972350.amp
https://www.aljazeera.com/news/2025/11/11/yemens-houthis-appear-to-pull-back-from-red-sea-shipping-attacks
アヴィ・オイオン / イスラエル政府広報局, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128577654による
Khamenei.ir, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=168292530による