1972年9月、田中角栄内閣総理大臣の訪中により実現した日中共同声明は、日中両国の国交正常化をもたらした歴史的転換点であると同時に、現在まで続く台湾の地位に関する問題を日本政府に対して投げかけることになった。
日中共同声明と「1972年体制」
この声明において、両国は戦争状態を含む不正常な状態の終了を確認し、日本政府は中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」として承認した。最大の焦点である台湾問題については、中国側が「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部」と表明したのに対し、日本側はこの立場を「十分理解し、尊重」し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する旨を示したのである。併せて、中国側による戦争賠償請求の放棄や、アジア・太平洋地域における覇権の否定、平和原則に基づく関係構築も合意され、同年9月29日をもって外交関係が樹立された。なおこの前年、1971年には中華民国政府は国際連合から脱退している。
そもそも、ポツダム宣言第8項とは何かといえば、八、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシという条文が表す通り、日本国による、台湾の放棄を定めた宣言である。そしてポツダム宣言に調印した中華民国政府はその時点では中国本土の大部分を統治しており、中華人民共和国こと中国共産党はあくまで延安をはじめ、華北のごく一部を支配するのみであった。
変化する台湾海峡情勢
この日中共同声明以降、台湾を巡る情勢は劇的に変化している。現在も日本政府は「1972年体制」を堅持し、台湾とは日台交流協会を事実上の外交窓口とし、公的には非政府間の実務関係を維持する一方、台湾海峡の問題は対話により平和的に解決されるべきであるとの立場を崩していない。だが近年では、中国による力や威圧による現状変更の試みに対し、G7サミットなどの場で「台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全と繁栄に不可欠」であると強調し、中国による台湾の領有に関しては強い反対の意を示しているのが現状である。なお、日本政府も日台交流協会については関知しており、岡田克也国務大臣による平成24年の答弁では「公益財団法人交流協会は、我が国と台湾との間の実務関係を処理する我が国の民間団体として既に十分な実績を有して」いるとのコメントをしている。
対する中国政府は、「一つの中国」原則を核心的利益と位置づけて譲歩の余地を見せず、2022年の白書においても平和的統一を目指しつつ「武力行使の放棄は約束しない」と明記しており、軍事演習の常態化を通じて台湾独立勢力や外部干渉への圧力を強めている。これに対し、台湾の頼清徳政権は「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」として主権と現状維持を主張し、中国が提案する「一国二制度」を拒否して自由民主主義体制を守り抜く姿勢を貫いている。
こうした情勢下において、国際的な関与も強まっている。米国は「一つの中国政策」を維持しつつも、「台湾関係法」に基づき台湾の自衛能力支援を継続しており、G7をはじめとする主要国の間でも、台湾海峡の問題は単なる地域紛争ではなく、世界経済や安全保障全体に関わる重大な懸念事項であるとの認識が共有されている。
深化する日台の絆と共通の価値観
台湾の対日感情は極めて良好であり、台湾人の70%以上が日本を最も好きな国であると回答しており、これは米国や中国を大きく引き離している。なお、日本に親しみを感じると回答した台湾人の割合は2024年には80%を突破しており、経済的な関係だけでなく、人的な結びつきも非常に深化していることがわかる。なお、台湾人は日本を信頼できる理由として民主主義や自由などの共通の価値観を最も大きな要因として挙げており、日本政府の進める普遍的価値(自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく「価値の外交」においても台湾が大きな地位を占めるであろうことが予想される。
参考
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b181001.htm
https://www.taiwan.gov.tw/content_3.php
https://www.koryu.or.jp/Portals/0/taipei/2025/0415/2024_seron_kani_JP.pdf
https://www.koryu.or.jp/Portals/0/taipei/2025/0415/2024_seron_shosai_JP.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/free_pros/pdfs/shiryo_01.pdf
画像:Geminiにより生成
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