フランスのマクロン大統領は11月27日、ロシアによる軍事的脅威や不確実な世界情勢を背景に、国家の抵抗力と軍との絆を強化するため、18歳から19歳の若者を対象とした「志願制の兵役」を来年夏より導入すると発表した。

「志願制」での国民奉仕と欧州の潮流

この制度はあくまで徴兵制の復活ではなく、フランス領内での活動に限定した10カ月間の有給(月額約800ユーロ)奉仕活動であり、来夏の3000人規模から開始して2035年には年間5万人への拡大を見込んでいる。クロアチアやドイツなど欧州各国で兵役制度の見直しが進む潮流の中で打ち出されたこの施策は、財政面などの懸念も一部にあるものの、国民の約7割が支持する「新たな備え」として位置づけられている。

なお、マクロン大統領はあくまでこれは志願制であり、徴兵制はフランスの現状に即していないとも述べており、徴兵制という強制的な国民の動員については慎重な姿勢を維持することを表明している。

ウクライナ侵攻が変えた安全保障

ウクライナ侵攻以前、欧州は軍備の縮小と社会保障の拡充を推し進めており、ウクライナに関しても徴兵制の廃止に向けて動いていた。しかし、ロシアによる侵攻により欧州の安全保障情勢は急激に緊迫の度合いを強めており、各国は軍備の拡充と徴兵制を始めとした国民の動員に進んでいる。

とはいえ、冷戦の終結に伴って欧州各国は軍備を大幅に削減し、国防予算もそれに伴って急減した影響で、急速な再軍備には障壁も多く、いずれの国も段階的な拡充をスタートさせた段階にある。

日本にとっても「試金石」となるか

日本国内ではフランスやドイツほど安全保障に関する危機感が高まっていないことから、徴兵制に関して議論は行われていないうえ、そもそも徴兵が憲法で禁じられている「苦役」に当たるのではないかという指摘もある。そのため、いずれの政権も徴兵制に関しては触れてこなかった。

しかし、今後も安全保障情勢が緊迫の度合いを強め続けた場合、慢性的な人手不足に苦しむ自衛隊の防衛能力を強化するため、何らかの形で国民を自衛隊員としての業務に参画させる動きが発生する可能性はゼロではない。そのため、フランスのこの動きは日本にとっても重要な試金石となりえる試みであると言えるだろう。

なお、自衛隊の人手不足に関しては、その入隊者の多くが高卒者であることから、そもそもこれまでの人的資源の主な獲得元であった高卒者が割合、絶対数共に急速に減少していること、また、少子高齢化に伴って民間企業やほかの官公庁も人手の確保に動いていることから、一般的に労働環境に関して比較的ネガティブな印象を持たれやすい自衛隊にとって、極めて厳しい情勢が当分持続する可能性は高いと言えるだろう。

参考

Reuters JP Article

TV Asahi News

BBC News

Wikimedia Commons (Image Source)

防衛省資料 (PDF)

画像:GEMINIにて作成