11月21日、トランプ大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に対して、ロシアによるウクライナ侵攻の和平案として、以下の28項目にわたる和平案を提示したとされる。本稿では、そのすべてを独自に翻訳し、各項目への補足コメントを加えながら整理する。

トランプ大統領によるウクライナへの和平案 全訳と補足

1. ウクライナの主権が確認される。

「ウクライナが主権国家であることは既に明白であるが、それを改めて確認することによる侵略抑止の意図か」

2. ロシア、ウクライナ、欧州の間で包括的な不可侵協定が締結される。

「"欧州"とは具体的にどの国を指すのか。また、曖昧な点とは具体的に何であるのかが不明瞭」

3. ロシアは近隣諸国に侵攻せず、NATOはこれ以上拡大しない。

「ロシアの以前よりの主張を全面的に取り入れた形」

4. ロシアとNATOの間で、米国の仲介の下、対話が行われる。

あらゆる安全保障上の問題が解決され、緊張緩和の条件が整えられることで、世界の安全保障と経済協力の拡大を目指す。

「恐らく後述の経済制裁の解除に関する文言だろう」

5. ウクライナは信頼できる安全保障の保証を受ける。

「以前より提案されていた国際平和維持軍の駐留のことと思われる」

6. ウクライナ軍の規模は60万人に制限される。

「主権国家の軍備を制限することは国家主権の保障と矛盾するのではないか」

7. ウクライナはNATOに加盟しないことを憲法に明記する。

「第6項に同じく、外交主権の侵害である可能性が高い」

8. NATOはウクライナに部隊を駐留させない。

「であるならば、第5項の安全の保障とはどのように為されるのか。NATOとしてではなく国連として部隊を駐留させるとしても、安保理常任理事国であるロシアがそれを容認するだろうか」

9. 欧州の戦闘機はポーランドに駐留する。

「なぜポーランドに限定されたのか。既に多数のNATO軍機が駐留しており、わざわざ条文を挿入する意図は不明」

10. 米国の保証

・米国は保証に対する対価を受け取る。
・ウクライナがロシアに侵攻した場合、保証は失われる。
・ロシアがウクライナに侵攻した場合、強い軍事対応と制裁の復活が行われる。
・ウクライナが理由なくモスクワまたはサンクトペテルブルクに向けてミサイルを発射した場合、安全保障の保証は無効となる。

「compensation は補償や報酬という意味があるが、文脈としては以前よりトランプ大統領が主張していた鉱物資源の対価としての受け取りのことであろう」

11. ウクライナはEU加盟資格を有する。

検討期間中、短期間の欧州市場への特恵アクセスが認められる。

「第6・7項と同じく、外交主権の侵害である可能性が高い」

12. ウクライナ再建のための国際支援パッケージ

・テクノロジーやAIなど成長産業への投資基金の設立。
・パイプラインやガス貯蔵施設の再建・近代化。
・戦争被災地域や住宅地の復旧・再建。
・インフラ開発。
・鉱物および天然資源の採掘。
・世界銀行による特別融資パッケージ。

13. ロシアは世界経済に再統合される。

制裁解除は段階的・個別に協議され、米露間で長期的な経済協力協定を締結する。ロシアはG8への復帰を招請される。

「クリミア併合によりG8から追放された経緯をも覆すものであり、ロシアに極めて有利」

14. 凍結された資金の利用

・凍結されたロシア資産1,000億ドルは米国主導のウクライナ復興事業に投資される。
・米国は利益の50%を受け取り、欧州は追加で1,000億ドルを拠出する。
・残りの凍結資産は米露の共同投資ファンドに振り向けられる。

「和平合意の仲介役としてはあまりに露骨であり、適切な態度か疑問が残る」

15. 安全保障問題に関する米露合同作業部会を設置

「NATOとロシアによる枠組みとしてOSCEが既に存在したが、戦争抑止には失敗している。その二の轍を踏む懸念」

16. ロシアは欧州およびウクライナに対する不侵略政策を法律化する。

17. 米露は核兵器の不拡散・管理に関する条約の有効期間を延長する。

18. ウクライナは非核兵器国となることに同意する。

19. ザポリージャ原発の扱い

同発電所はIAEAの監視下で稼働し、電力はロシアとウクライナに50:50で分配される。

「ウクライナ国内の発電所の電力を、電力不足でもないロシアに供与する合理的理由が不明」

20. 異なる文化への理解と寛容の促進

両国は人種差別と偏見を撤廃する教育プログラムを導入し、宗教的寛容や言語的少数派の保護、メディアと教育の権利保障、ナチスのイデオロギーの拒絶などに取り組む。

「ナチスのイデオロギーとは何かが恣意的であり、ロシアの主張を全面的に取り入れた内容と言わざるを得ない」

21. 領土問題

・クリミア、ルハンシク、ドネツィクは、米国を含むすべての国によって事実上ロシア領として承認される。
・ヘルソンとザポリージャは接触線上で凍結される(事実上の承認)。
・ロシアは5つの地域以外の支配領域を放棄する。
・ウクライナ軍はドネツク州の一部から撤退し、その地域は中立非武装緩衝地帯とみなされる。

「ロシアへの明確な領土割譲を含み、ウクライナが受け入れられるかは極めて疑問」

22. 領土問題に関する将来の約束

合意した領土の取り決めを武力で変更しないと約束し、違反した場合はいかなる安全保障上の保証も適用されない。

23. ドニエプル川および黒海での商業利用

ロシアはウクライナのドニエプル川利用を妨げず、黒海を横断する穀物の自由輸送について合意する。

24. 人道委員会の設置

・捕虜・遺体の「全員対全員」に基づく交換。
・子どもを含む民間人被拘束者や人質の送還。
・家族再会プログラムや被害者支援の措置。

25. ウクライナは100日後に選挙を実施する。

「内政干渉である可能性が極めて高く、なぜ具体的な日時を指定して選挙を要求するのか不明」

26. 紛争当事者への全面的な恩赦

戦争中の行動について全ての当事者が恩赦を受け、今後いかなる主張や苦情も行わないとする。

「キーウ近郊での戦争犯罪疑惑を含め、既に国際的な司法手続きが進む中で実現は困難」

27. 合意履行を監督する平和評議会

本合意は法的拘束力を有し、その実施状況はドナルド・J・トランプ大統領が議長を務める平和評議会が監視し、違反には制裁が科される。

「その保証がどのようになされるのかは不明瞭」

28. 停戦発効の条件

全ての当事者が覚書に同意し、双方が合意地点に撤退して合意の実施を開始した直後に停戦が発効する。

「その過程を誰がどのように監視するのか、具体的プロセスは曖昧なまま」

まとめ:極めてロシア寄りの「和平案」

結論から言えば、この案は領土問題を含めて極めてロシアに有利であり、条文の多くは不明瞭なまま残されている。さらに、これまでの米国自身の外交姿勢と矛盾する可能性の高い項目も多く、ウクライナにとっても欧州諸国にとっても受け入れ可能性は低いと考えられる。

一方で、ゼレンスキー大統領の側近の汚職事件による失脚など、ウクライナ国内の政治基盤は不安定化している。今後、ゼレンスキー政権がどのようにこの難局を乗り切るのか、そして欧米諸国がこの種の「提案」にどう向き合うのかが注目される。