財務省は28日、2025年度(令和7年度)の国債発行計画の再修正を発表した。補正予算の決定に伴い、市場で消化する「カレンダーベース市中発行額」は、6月の変更時点から6兆9000億円増額され、総額178兆7000億円となる見通しだ。6月に超長期債の需給悪化を受けて異例の見直しを行ったばかりだが、今回は短期債に加え、2年債や5年債といった中期債の増発にも踏み切る。高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」の下、膨張する財政支出が国債市場に重くのしかかる構図が鮮明となっている。高市総理は所信表明演説でも積極財政へのこだわりを見せたが、実際の厳しい財政状況はその政策の見通しに疑念を生じさせている。

異例の「中期債」増発へ

今回の修正の最大の特徴は、増発対象の拡大である。通常、年度途中の補正予算に伴う資金調達は、償還期間が1年以内の「割引短期国債」の増発で対応するのが通例だ。実際、今回も6カ月物の割引短期国債が6兆3000億円増額される計画だが、それに加えて2年債と5年債もそれぞれ3000億円増額されることとなった。具体的には、来年1月以降、1回の入札あたり1000億円ずつ上乗せされる。

なぜ、あえて金利変動の影響を受けやすい中期債の増発に踏み切ったのか。市場関係者の間では、短期債市場だけでは消化しきれないほどの巨額な財政出動への懸念と、来年度予算も引き続き積極財政が続くとの観測が背景にあるとみられている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤原和也債券ストラテジストは、短期債に加え2年・5年の利付債が増発されることで需給が緩み、金利上昇圧力が強まるとの懸念を示している。実際、発表当日に行われた2年債入札が低調な結果に終わったことは、市場が「日銀の利上げ」以上に「国債増発による需給悪化」を警戒している証左と言えるだろう。なお、日本政府の止まらない財政支出の拡大を受けて、日本国債の利回りが過去最高を更新したことは記憶に新しい。今回の国債発行額の増額は、既にかなりの高水準に達している長期国債の利回りに影響を与えるであろうことは明白であり、財務省はじめ、政府の対応が注視されている。

「責任ある積極財政」と片山財務相の財政観

この「責任ある積極財政」を支える論理的支柱となっているのが、片山財務大臣の財政観だ。片山氏は就任後の会見で、財務省職員に対しマインドセットの「リセット」を求めたと言及している。

大臣は、日本の財政状況について「ギリシャ並みに極端に悪いわけではない」と主張。単年度赤字はG7(主要7カ国)中で4番目であり、最近の実績では2番目に改善しているとのデータを挙げ、従来の「財政危機」一辺倒の説明からの脱却を図っている。この姿勢は、成長戦略とセットで税収増を目指す「好循環」への期待に基づくものだが、市場がその楽観論を共有できるかは不透明だ。事実として、日本の財政状況が極めてひっ迫していることは明確であり、特に社会保障費の止まらない膨張は市場にとっての大きな不安材料である。

金利上昇圧力との攻防、正念場の2025年度

今後の焦点は、この増発が金利体系全体にどのような歪みをもたらすかにある。今回の計画では、流動性供給入札の総額や、40年債などの超長期債の発行額は据え置かれた。しかし、中期ゾーンの利回りが上昇(価格は下落)すれば、イールドカーブ(利回り曲線)全体への波及は避けられない。

また、令和7年度の発行総額自体は176兆8568億円(当初)から、補正後は189兆5869億円へと約12兆7000億円も膨らんでいる。これには借換債の減少分などが含まれるものの、新規国債が11兆円以上増加している事実は重い。

政府はデフレ脱却を確実にするための財政出動と説明するが、金利ある世界への移行期において、国債増発は利払い費の増加という形で将来の財政を圧迫するブーメランとなりかねない。「責任ある積極財政」が、市場の信認という「責任」を果たし続けられるのか、2025年度は正念場の年となるだろう。

用語解説

カレンダーベース市中発行額: あらかじめ発行額を定めた入札により、定期的に市場に対して発行される国債の総額。投資家が実際に購入する規模を示すため、市場へのインパクトを測る重要な指標となる。

割引短期国債(T-Bills): 満期が1年以内の国債。利子の支払いがなく、額面より割り引かれた価格で発行され、満期に額面金額で償還される。主に一時的な資金不足を補うために発行される。

利付債(りつきさい): 半年ごとに利子が支払われ、満期に元本が返済される一般的な国債。2年、5年、10年、20年など様々な期間がある。

流動性供給入札: 過去に発行され、市場に出回っている量が少なくなった銘柄を追加で発行する入札。特定の銘柄が極端に品薄になるのを防ぎ、市場の流動性を維持するために行われる。

参考

Bloomberg記事

財務省:国債発行計画(令和7年11月28日)

金融庁:大臣記者会見(令和7年11月4日)

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