北朝鮮による弾道ミサイル発射と、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連会合における活発な防衛外交――。ここ一か月の動きは、我が国を取り巻く安全保障環境の厳しさと、それに対処しようとする政府の多層的な動きを如実に映し出しているといえる。

直近の事態と北朝鮮の狙い

まず、直近の事態を整理したい。政府発表によれば、11月7日12時34分頃、北朝鮮西岸から東方向へ弾道ミサイル1発が発射された。最高高度約50kmで約450km飛翔し、日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下したと推定されている。現時点で被害は確認されていないものの、先月22日の発射に続く挑発行動であり、高市早苗総理は直ちに情報収集と分析、国民への迅速な情報提供を指示した。

なお、北朝鮮による挑発行動の活発化には、新たに就任した高市総理が外交政策において比較的強硬であるという見方から、日本側の反応を伺う狙いもあるものと思われる。

防衛外交の舞台裏と日韓・日中関係

この軍事的挑発の裏で、外交面では複雑な駆け引きが展開されている。小泉進次郎防衛相は、第12回拡大ASEAN国防相会議に出席するなど、各国との防衛相会談を重ねている。特筆すべきは、日韓および日中関係の動きである。

日韓関係においては、協力強化と懸案事項という「二つの側面」が混在している状況にある。11月、自衛隊による韓国軍機への給油支援が予定されていたが、対象機が竹島(韓国名・独島)周辺を飛行したことが判明し、日本側が支援を中止。これに反発した韓国側が共同訓練を見送るなど、実務レベルでの交流は停滞していた。しかし一方で、28日には小泉防衛相と李赫駐日韓国大使が面会し、さらに先日の日韓防衛相会談では、アン長官の来日提案や、日米韓の連携強化が確認された。

「中国とも韓国とも関係悪化は致命的」とする防衛省内の危機感が、関係正常化を後押ししているとみられる。米国が地域の安全保障への関与を弱める中で、日韓の協調が重要であるとの共通認識が両国の防衛関係者の間で急速に強まっている。

対中関係もまた、硬軟両様の構えだ。小泉防衛相は中国の董軍国防相との会談で、東シナ海等での軍事活動活発化に深刻な懸念を伝達した。その一方で、不測の衝突を回避するための「日中防衛当局間ホットライン」の確実な運用や、「戦略的互恵関係」の推進でも一致したとされる。しかしながら、先日の高市総理の台湾有事発言やそれに伴う中国側の強硬姿勢にも代表されるように、日中の関係は極めて急速に悪化している状況にあり、防衛協力についてもしばらくは停滞が予想される。

多層的な連携と今後の見通し

これまでの経緯を振り返れば、北朝鮮のミサイル技術向上と中国の海洋進出に対し、日本は日米同盟を基軸としつつ、日米韓、さらには「SQUAD(スクワッド)」と呼ばれる日米豪フィリピンの4カ国枠組みなど、パートナー国との連携を重層的に構築することで抑止力を高めようとしてきた。つい先日に三菱重工業が契約を勝ち取ったオーストラリアへの「もがみ」型護衛艦をはじめとして、各国への防衛装備移転(トップセールス)に意欲を示しているのは、その延長線上にある動きといえる。

今後の見通しとして、高市政権は「防衛力変革」を掲げ、あらゆる選択肢を排除せずに検討を進める構えだ。北朝鮮の挑発が続く中、日韓の防衛交流が本格的に再開されるか、また中国との対話が形式にとどまらず実効性を持つかが焦点となるだろう。急速に変化する情勢下で、抑止力の強化と対話の維持という困難な舵取りが、これまで以上に求められていくことになると思われる。

参考

朝日新聞デジタル記事

防衛省 記者会見(11月7日)

防衛省 記者会見(11月1日)