ウクライナ戦争において、ロシア国民はどの程度犠牲になっているのか? 昨今、ニュースに盛んに取り上げられるウクライナ戦争だが、その多くはウクライナの被害や戦争の進展についてのものであり、ロシアの被害については十分な注意が払われているとは言いがたい。しかし、戦争には人的資源の消費がつきものであり、かつその人的資源が尽きれば戦争の継続は困難となる。
本稿では、internewsが各種資料のデータを総合するとともに、過去のロシア軍による侵攻作戦であるチェチェン紛争とアフガン侵攻におけるデータを割り出し、ウクライナにおけるロシア軍の死傷者数を独自に考察する。
防衛戦争と侵略戦争における「損害の許容度」
戦争による損害の許容度は国家によって大きく異なってくる。最も簡単な例えとしては、防衛戦争と侵略戦争においては、防衛戦争の方がより国民の損害への許容度が増加する傾向にあることは、直感的にも理解しやすいだろう。
実例として、フィンランドがソビエト連邦の侵略を受けた冬戦争において、フィンランド軍は国民の7%を動員し、そのうち26%が死傷するという甚大な損害を出したものの、最後まで戦争を継続した。むろん、当時と今では人口構成も価値観も大きく異なるため、単純に比較はできないが、現代日本に例えれば、870万人を動員し、そのうち220万人が死傷するということである。
さらに驚異的な数字もある。第二次世界大戦における独ソ戦において、ドイツの侵略を受けたソビエト連邦は、軍人だけで600万人を動員し、民間人も含めた損害では国民の15%にあたる、2600万人が死亡している。むろん、これは極めて異常な数値ではあるが、防衛戦争という大義名分が、いかに戦争遂行において重要であるか分かるだろう。
しかし、今回のウクライナ侵攻ではロシアの国土がウクライナ軍によって大きく削り取られるような事態は発生せず、戦場は主にウクライナ国内に限られている。すなわち、ロシア国民としても防衛戦争との実感は持ちにくく、過去の事例と比べて損害への許容度は低下していると考えられる。
過去のデータ:アフガン侵攻とチェチェン紛争
過去のロシア(ソ連)軍による侵攻作戦のデータから損耗率を紐解いてみたい。
1979年からのアフガン侵攻において、公式統計によればアフガニスタンで軍務に就いたソ連市民の総数は620,000人に達する。損害については、全省庁を合計した総死亡者数は14,453人から15,051人の範囲とされる。また、入院治療を受けた兵士のうち負傷によるものは53,753人であった。これらを基にすると、アフガン侵攻における損耗率は約10.9%となる。
一方、第二次チェチェン紛争(1999-2009年)では、独立系メディア等の統計を基に推計すると、死者数は15,000人程度となるだろう。当時の戦死:戦傷比率を1:6と仮定した場合、合計で約150,000人が死傷したことになり、投入兵力(推計30万〜50万人)に対する損耗率は30%〜50%と推測される。本稿では、当時の軍の混乱も考慮し、30%を損耗率として採用する。
現代戦における死傷比率とウクライナでの損耗
現代戦におけるKilled-to-Wounded Ratio(戦死者と負傷者の比率)は、医療技術の進歩と共に低下している。第二次世界大戦までは1:1.7〜2.4程度であったが、イラク戦争やアフガン戦争では1:5.0〜7.2まで低下している。ロシア軍においても、おおよそ1:9程度であると考えることができるだろう。
アフガン侵攻及びチェチェン紛争のデータを総合し、ロシア軍の平均的な損耗率を投入兵力の20%と試算する。これをウクライナ戦争に当てはめてみよう。
ロシアは2022年9月以降の部分動員を含め、ウクライナ戦線に大量の人員を投入している。2022年11月から2025年11月までの三年間において、ローテーションなどを考慮した累計の投入兵力はおおよそ120万人と考えられる。ここに先述の損耗率20%を代入すると、ロシア軍の現時点での累計死傷者数は24万人となる。
結論:予測を遥かに上回る「正規戦」の激しさ
しかし、この24万人という数字はあくまで過去のデータに基づく試算値であり、実際に報じられている死傷者数よりはるかに少ない。例えばCNNは100万人近くが死傷しているとのデータを引用しているほか、独立系メディアの独自調査でも少なくとも15万人が死亡しているとする。
ロシア軍の正規人員がおおよそ100万人であることを考えると、予備役の動員などを考慮してもその損耗率は極めて高率であり、過去の戦争に基づく損耗率がもはや参考にならないレベルにある。この戦争におけるロシア軍の損耗はこれまでの戦争を上回る規模であり、正規軍同士の全面戦闘における損耗の激しさを物語っている。
参考
https://ciaotest.cc.columbia.edu/cbr/cbr00/video/cbr_ctd/cbr_ctd_52.html
https://scispace.com/pdf/a-profile-of-combat-injury-1g7o1jowbv.pdf
https://www.bmlv.gv.at/pdf_pool/publikationen/felg01.pdf
https://jamestown.org/casualty-figures-2/
https://www.csis.org/analysis/russias-ill-fated-invasion-ukraine-lessons-modern-warfare
Russia nears 1 million war casualties in Ukraine, study finds | CNN