2025年11月26日、ナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領は、国内で相次ぐ武装勢力による襲撃や大規模な拉致事件を受け、全土に「治安緊急事態」を宣言した。

緊急事態宣言の背景と具体策

今回の宣言は、11月中旬以降に北西部のケッビ州で女子学生25名、ナイジャ州で300名以上の学生が拉致されるなど、学校や市民を標的とした凶悪犯罪が急増していることを受けたものである。大統領は声明で「これは国家の緊急事態である」と強調し、以下の治安強化策を命じた。なお、ナイジェリア北部はイスラム原理主義組織、「ボコハラム」の主要な活動拠点とされており、以前より学校への襲撃は相次いでいたが、近年になってその襲撃が再び活発化したことから、ナイジェリア政府は今回の非常事態宣言に至ったとみられる。

人員の増強: 警察官を新たに2万人追加徴兵し、総勢5万人体制とするほか、軍への追加徴兵も指示。

配置転換: 要人警護などの任務にある警察官を再訓練し、治安悪化地域へ再配置する。また、情報機関(DSS)の指揮下にある森林警備隊を動員し、森林地帯に潜伏するテロリストや武装集団の掃討を行う。

施設警備: 学校や宗教施設(モスク、教会)に対し、警察や治安部隊との連携強化を呼びかける。

牧畜問題への対応: 農民と遊牧民(フラニ族など)の衝突を防ぐため、牧畜省を通じて不法武器の放棄と牧場経営への移行を推進する。

米国からの圧力と外交的対応

今回の動きの背景には、国内の治安悪化に加え、米国のトランプ政権からの強い圧力がある。米国務省は10月31日、ナイジェリアにおけるキリスト教徒への迫害を理由に、同国を「特別懸念国(CPC)」に再指定した。トランプ大統領は「銃撃も辞さない(guns-a-blazing)」介入を示唆するなど強い懸念を示しており、これに対応するため、ナイジェリア政府はリバド国家安全保障顧問や外相、国防相らを含む代表団を編成し、米国側との合同会議に向けた準備を進めている。

なお、トランプ政権の介入についてはあくまで脅迫の域を出ないとの観測もあるものの、以前にもトランプ政権は南部アフリカに位置するレソトに対して明らかに過剰な関税を見せしめ的に発動した前例があることから、今回のナイジェリア政府の対応は過剰とまでは言えないだろう。

国内の反応と課題

ティヌブ大統領(2023年5月就任)は、燃料補助金の廃止など経済改革を進める一方で、ボコ・ハラムやISWAP(イスラム国西アフリカ州)などのテロ組織、および武装盗賊による治安問題に直面している。専門家からは、兵力の増強だけでは不十分であり、政府の説明責任や地域社会の不満解消、軍の待遇改善といった根本的な原因に対処しなければ、治安の劇的な改善は難しいとの指摘もなされている。

そもそも、北部における治安の悪化もその根本には経済的な困窮があるとの指摘もなされていることから、ナイジェリア政府には今後、治安対策という対症療法だけではなく、経済改革によるより根本的なアプローチも求められることとなるであろう。

参考

https://apnews.com/article/nigeria-abductions-emergency-tinubu-2c03f38192703fa7c78bcf2168db9eaf https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/12/1885be1da6fe144e.html https://www.foreignaffairs.gov.ng/ https://statehouse.gov.ng/president-tinubu-declares-a-security-emergency-orders-army-police-to-recruit-more-personnel/ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nigeria/index.html