書籍『Cultural integration of immigrants in Europe』は、欧州諸国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国)および米国における移民の文化的統合のプロセスを、経済学的かつ実証的な視点から包括的に分析したものである。欧州において移民受け入れが増加し、多文化共生やナショナル・アイデンティティをめぐる政治的議論が過熱する中、本書は感情的な議論を排し、統一されたデータと計量経済学的手法を用いて、世代間における統合の実態を明らかにしている。本記事では、外国籍住民が年々増加している日本において、ヨーロッパにおける先行研究がどのように適用できるのか分析を試みる。

経済的インセンティブとしての文化的統合

文化的統合の研究においては、伝統的な「同化理論(元の文化を捨て主流文化に溶け込む)」、「多文化主義(独自のアイデンティティを保持し共存する)」、そして社会構造的な制約を重視する「構造主義」といった社会学的視点が対立してきた。本書ではこれらに加え、言語習得のコストや便益、アイデンティティ形成がもたらす経済的インセンティブ(あるいは「対抗的アイデンティティ」の形成)といった経済学的モデルを導入し、統合の動態を分析している。

これは極めて有益な視点であり、特に経済的なインセンティブ、例えば日本語能力の向上によって就職先の選択肢が広がることや、教育機関への入学機会が増えることによる、間接的な収入の増加など、言語習得を筆頭とした文化的統合の持つ経済的なインセンティブは、日本における外国籍住民の文化統合においても非常に重要な要素となるだろう。

欧州各国の事例に見る統合の多様性

各国の分析からは、受け入れ国の歴史的背景や制度、移民の出身国によって統合のパターンに著しい異質性が存在することが明らかになった。フランスでは、マグリブ(北アフリカ)出身者が主要な移民グループであるが、彼らの文化的統合(言語や社会規範への適応)は一般に信じられているよりも急速に進んでいる。しかし、第二世代になっても雇用面でのペナルティが解消されず、経済的統合が遅れているという「フランスのパラドックス」が確認された。

ドイツにおいては、かつてのガストアルバイター(外国人労働者)政策の影響が色濃く、特にトルコ系移民の統合が課題となっている。第一世代では言語や結婚行動においてホスト社会との距離が大きかったが、第二世代では教育水準や言語能力において着実な収斂(コンバージェンス)が見られる。

英国では、多文化主義政策の下、パキスタンやバングラデシュ出身のイスラム系移民の統合が懸念されてきたが、実証分析によれば、これらのグループは他の移民集団と比較しても「英国人」としてのアイデンティティを強く持っていることが示された。ただし、雇用における格差は依然として根深い。

近年の移民急増国であるスペインやイタリアでは、移民の流入が労働市場のニーズ主導であったため、第一世代の就業率は高い。スペインでは言語的・文化的に近いラテンアメリカ系移民の統合がスムーズに進む一方、モロッコ系移民との間には大きな文化的・経済的ギャップが存在する。

スウェーデンやスイスのような豊かな福祉国家においては、教育や結婚パターンを通じた統合が進んでいるものの、スイスにおける厳格な市民権付与の制限や、スウェーデンにおける非欧州系移民の雇用ギャップなど、制度や出身地域による統合の濃淡が浮き彫りになった。

比較対象としての米国では、メキシコ系移民の言語的同化の遅れが指摘される一方で、ヒスパニック系内での結婚市場の拡大など、独自の統合パターンが観察される。しかし、長期的には過去の欧州系移民と同様の統合プロセスを辿っていることが示唆された。

日本への示唆:過渡期にある移民国家

これらを日本にも適用するならば、日本は現在、いわば移民の第一世代を受け入れている状況であり、これまでの単一民族国家から移民国家へと移行する過渡期にあると言えるだろう。すなわち、昨今の外国人に関する政治的な言説にも表れている通り、日本国内の外国籍住民は文化的統合のプロセスの中途にあり、それゆえに一部地域では地元住民との摩擦も観測されているのは自然なことともいえるだろう。

世代間格差と「不公平感」の克服

本書の結論として、欧州全体を俯瞰したクロスナショナル分析(欧州社会調査ESSを用いた分析)から、いくつかの普遍的な傾向が導き出されている。第一に、悲観的な公的言説に反して、文化的統合は確実に進行している。言語の習得は世代を経るごとに劇的に改善し、宗教性(祈りの頻度など)についても、第二世代は第一世代よりも世俗化し、現地の水準に近づく傾向がある。また、出生率や結婚行動(初婚年齢など)に関しても、出身国の規範からホスト国の規範へと急速に収斂している。

第二に、ジェンダーによる格差の縮小である。多くの移民グループにおいて、第一世代では女性の教育水準や労働参加率が低かったとしても、第二世代の女性は教育面で男性を凌駕するほどの成果を上げ、労働市場への参加も現地生まれの女性の水準に近づいている。

第三に、そして最も懸念すべき発見として、文化的・経済的な収斂が進んでいるにもかかわらず、第二世代の移民が抱く「差別感」や「不信感」は、第一世代よりもむしろ高まっているという事実である。第一世代は移住による生活向上への希望からホスト国の制度(警察や議会)に対して比較的高い信頼を寄せるが、現地で生まれ育った第二世代は、現地人と同等の能力を持ちながらも依然として残る雇用差別や社会的障壁に直面し、結果としてホスト社会への不信感を強める傾向がある。

この第二世代の持つ「不公平感」に対して対処できなければ、日本国内における外国籍住民の統合は困難である可能性が高い。しかしながら、日本国内における外国籍者の特徴として、職業及び居住地に関して、特定の職業や居住地に集中する傾向が見られることから、文化的統合が妨げられているとの意見もある。これは文化的統合が遅れているからこそ、特定の職業や居住地に集中するとも言え、実際に各国の移民第一世代で確認されている現象でもある。

結論:双方向のプロセスとしての統合

総じて、欧州における移民の統合プロセスは、文化的側面(言語、規範、家族形成)においては世代間で順調に進展していると言える。しかし、経済的側面(特に失業率や職種)での格差は依然として解消されておらず、また市民権の獲得や社会参加といったシビック・インテグレーションの面でも課題が残る。統合は移民側の努力だけでなく、受け入れ社会側の受容性や制度設計に強く依存する双方向のプロセスであり、経済的な不利益や差別感の解消こそが、今後の欧州における社会的結束を維持するための鍵であることが示唆されている。

そして現在、移民第一世代を受け入れる最中である日本に関しては、第二世代が持ちがちな「不公平感」を払しょくし、職業・居住地域で一定の分散が実現できるよう、日本語教育などを強化することが必要となるであろう。

参考

Algan, Y., Bisin, A., Manning, A., & Verdier, T. (2012). Cultural integration of immigrants in Europe (p. 359). [cite_start]Oxford University Press. [cite: 1205]