「AIバブル」という言葉が、肯定派・否定派を問わず盛んに語られている。しかし、そもそもバブルとは何なのだろうか。国語辞典によれば「泡。あぶく。また、泡のように消えやすく不確実なもの」とある。バブル経済という言葉を、読者諸君も一度は耳にしたことがあるはずだ。

本稿では Jason Furman 氏(ハーバード・ケネディ・スクール)と Robert Seamans 氏(NYU スターン・スクール・オブ・ビジネス)による論文と、ナスダック市場の動向をもとに、近年の AI の伸長とその経済への影響、そして現在の状況を「AIバブル」と形容することが本当に正しいのかを考えてみたい。

「バブル」と呼ばれる現象は何か

バブルという言葉が使われるとき、そこには「実態を大きく上回る期待」というニュアンスが含まれている。資産価格が上昇しているだけなら、単なる成長局面かもしれない。問題は、その裏にどれだけ実体経済の変化が伴っているのか、という点だ。

AI技術の伸長とChatGPTのインパクト

Furman & Seamans の論文によれば、AI の伸長はコロナ禍以前から既に観測されていた。例えば画像認識の誤り率は、2010 年の 29% から 2017 年には 3% 未満に低下しており、技術的能力が急速に向上していることは以前から指摘されている。

しかし、そうした技術革新は長らく「エンジニアの世界の話」であり、一般の生活者にとっては遠い存在だった。その意味で、ChatGPT はまさしくゲームチェンジャーである。OpenAI によれば、毎週 7 億人のユーザーが ChatGPT を使用しているという。この数字はあくまでアクティブユーザーであり、登録ユーザーで考えれば世界人口のおおよそ 10% 以上が、何らかの形で ChatGPT という単一のサービスに触れていることになる。これは明らかに大きな数字であり、これまでにほとんど例のない規模の現象だ。

株式市場は「AIバブル」なのか

それでは、現在の市場の過熱は AI バブルと言えるのだろうか。結論を急ぐべきではないが、少なくともかつての「山手線の円内の地価がアメリカ全土の地価より高額」というような、誰が見ても明らかなバブルとは様相を異にしているのではないだろうか。

とはいえ、ナスダックの最新(11 月 24 日時点)の取引動向を見ると、時価総額で 5 兆ドルを突破したばかりの NVIDIA や Google 親会社の Alphabet、さらには AI 開発にも意欲的な Tesla などが取引額上位に並んでおり、市場の関心がテック系銘柄に集中していることは明白だ。

では、その高値の裏にどの程度まで実態が伴っているのか。サービスの性質上、AI 関連企業は急激な成長を見せることが多いものの、伝統的な製造業、例えば航空機大手ボーイング社のように分かりやすい物理的資産を持たないケースが多い。それゆえに経営の機動力を確保しているとも言えるが、同時にどこか危うさも感じさせる。

結論:コントロールできない経済とどう向き合うか

恐らく、経済というものは完全にコントロールできる対象ではなく、ある程度はレッセフェール、すなわち「なすにまかせよ」の精神で俯瞰するしかないのだろう。断定的なことを述べるのは簡単だが、本稿としては、無責任に「これはバブルだ」「いや、バブルではない」と決めつけることを避けたい。

むしろ、AI 技術の現実の能力と、株式市場における期待や恐怖の揺れ動きを、それぞれ冷静に見比べることが重要だと考える。最終的な判断は、読者諸君の明晰な頭脳にゆだねたい。

参考

  • Weblio「バブル」国語辞典
  • Furman, J., & Seamans, R. (2019). AI and the Economy. Innovation Policy and the Economy, 19(1), 161-191.
  • Nasdaq 公式サイト(株式市場データ)
  • OpenAI, “How people are using ChatGPT”