近年、オーバーツーリズムなる現象が市井の口にのぼることが増えている。一般的な定義としては、オーバーツーリズムは「観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度低下への懸念が生じること」(観光庁)とされている。本稿でもこの定義に則って分析を行いたい。
訪日観光客数は右肩上がり
まず、訪日観光客の全体数についてであるが、これは明確に右肩上がりの上昇を続けている。具体的には、2014年の1,341万人から2024年には3,687万人へと、約3倍の増加を示している。増加率にすると175%の増加であり、年平均でも17.5%という増加幅である。
しかし、観光庁の「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」に代表されるようなオーバーツーリズムの問題視は、ここ数年になって急速に広まっている。なぜ今になってオーバーツーリズムが大きな課題として浮上してきたのだろうか。
「集中」がもたらすオーバーツーリズム
それを考える上で鍵となるのが、先述の定義にある「観光客が集中する一部の地域」という部分である。観光白書によれば、訪日外国人観光客のうち宿泊者数は、関東と近畿だけで全体の9割近くを占めている。一方で、宿泊施設数に目を向けると、近畿や関東への集中は見られるものの、沖縄や北海道などにも一定数が分散している。
それにもかかわらず、訪日外国人観光客の宿泊需要を賄ううえでは絶対的な不足が生じていることは明確であり、観光白書でも外国人観光客の地方への誘導が繰り返し言及されている。つまり、問題は「観光客の総数」そのものではなく、「どこに集中しているか」という点にある。
宿泊施設の総数は足りているのか
宿泊施設数のデータによれば、日本全体の宿泊施設数の総数は6万を超えている。少なくとも、全国レベルの総数としては「絶対的に不足している」とは言い難い。それでも現場で混雑が深刻化しているのは、やはり関東と近畿への集中的な需要が理由だろう。
その混雑ぶりは、地域住民だけでなく外国人観光客からも不満の声が聞かれるほどである。これでは観光の満足度が低下してしまい、日本の観光産業そのものにとっても望ましい状況とは言えない。
必要なのは「数」よりも「分散」
すなわち、肝要なのは観光客数の抑制ではなく「分散」である。訪日外国人観光客からの宿泊税の徴収は、オーバーツーリズム対策の一つとして議論されているが、その点においてどれほど有効なのかについては疑問が残る。
むしろ、政府や自治体が行うべきは、地方への外国人観光客の誘導と、それに伴うガイドの育成支援、日本におけるマナーの周知徹底などであろう。観光客の絶対数を減らすのではなく、より均等に日本全国へと観光客を分散させることこそ、「持続可能な観光産業」を育成することにつながるはずだ。
参考
- 観光庁「観光白書」
- 観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」
- 観光庁 出入国者数統計