以下では、先日行われた日中の外務省局長級協議に関する外務省プレスリリースを取り上げ、その内容を整理したうえで、中国政府の今後の対日姿勢について考察する。
外務省発表から見る日本側のメッセージ
外務省の発表は次のとおりである。
「11月18日、金井正彰アジア大洋州局長は、劉勁松(りゅう・けいしょう)中国外交部アジア司長と北京において協議を行い、日中関係等について意見交換を行いました。
1 金井局長から劉司長に対し、先般、薛剣在大阪中国総領事が、極めて不適切な発信を行ったことに対し、改めて強く抗議し、早急に適切な対応をとることを強く求めました。また、中国政府による日本への渡航注意等の一連の発表についても申入れを行い、日本国内の治安が決して悪化などしていないことを反論し、改めて中国側が適切な対応をとるよう強く求めました。併せて、在留邦人の安全の確保についても申し入れました。
2 また、劉司長から中国側の立場に基づく発言がありましたが、金井局長からは反論し、我が国政府の従来から一貫した立場を説明しました。」
以上が外務省から発せられたプレスリリースの概要である。内容は簡潔で、日本側の立場を示すものにとどまっているため、中国政府側の発信もあわせて確認しておきたい。
限定的な中国側の公的発信
しかし、駐日中国大使館は今年8月以降、大使館としても外交部としても公的な声明を発表しておらず、参照しうるのは外交部の定例会見における報道官談話に限られる。21日の会見では、次のような発言がなされている。
「高市早苗首相は台湾に関して露骨かつ誤った発言を行った。この発言は、日本による台湾海峡への武力介入の可能性を示唆し、中国国民の怒りと非難を招き、日中関係の政治的基盤を揺るがした。中国は断固たる反対を表明している。」
今回の局長級協議の位置づけ
金井局長と劉司長の会談そのものについて、中国側は公的声明の中でほとんど触れていない。中国メディアで目立ったのは、いわゆる「両手ポケット」での応対といった周辺的な話題である。こうした扱いからは、少なくとも中国側は今回の局長級協議を重い位置づけとは見ていない可能性が高い。日本側も、総領事発言への抗議と従来の立場の説明に主眼を置いており、実質的な議題を深掘りする段階には至っていないと考えられる。実質的な協議は、今後予定されるより上位レベルの会談に委ねられるだろう。
エスカレーション・ラダーと対日圧力のシナリオ
今後の中国側の対応を展望するうえでは、いわゆるエスカレーション・ラダーの発想が参考になる。中国は自らの目標達成に向け、制裁措置を段階的に強化しつつ、日本側の態度変容を促そうとする可能性が高い。先日の日本産水産物の輸入停止は、その第一段階と位置づけられる。今後は対象分野の拡大や措置の深刻化を通じて、対日姿勢を一段と強硬化させていくことが予想される。
「圧力」と「対話」が同時に発信される理由
もっとも、ここで留意すべきは、中国側が対話のメッセージも同時に発している点である。先日のブイ撤去に象徴されるように、日本側に一定の配慮を示す行動も並行して取られている。この「圧力」と「対話」という矛盾したシグナルこそが中国外交の特徴であり、その真意を読み解くことは容易ではない。
日本政府の対応と今後の課題
その結果として、日本政府としても拙速な対抗措置を取りにくく、慎重な対応を続けざるを得ない状況にあるといえる。そうした姿勢は、今回の外務省プレスリリースにも色濃く表れている。
参考
- 外務省「 金井アジア大洋州局長と劉・中国外交部アジア司長との協議 」