エジプトの第5回「原子力エネルギーの日(11月19日)」に合わせて開催されたイベントで、エジプトのシーシ大統領とロシアのプーチン大統領が、オンラインでエル・ダバ原子力発電所第1号機の原子炉圧力容器設置式典に参加した。
本稿ではその詳しい内容にフォーカスを当て、今後の二国間関係を分析する。
式典の流れ
まず、エジプトの原子力プロジェクトに関する紹介映像の上映が行われ、その後にロスアトム社(ROSATOM)総裁、エジプト電力・再生可能エネルギー大臣、IAEA(国際原子力機関)事務局長(録画)によるスピーチが行われた。その後はプーチン大統領のスピーチとシーシ大統領のスピーチがそれそれ行われた。スピーチの終了後には両大統領の合図により、原子炉圧力容器の設置が開始された。
プーチン大統領のスピーチ内容とその意味
プロジェクトの成功に関してエジプトとロシアの協力により建設が順調に進んでいることを称賛し、このプロジェクトがエジプト経済の成長に必要な電力を供給すると強調した。また、シーシ大統領への賛辞も惜しまず、 シーシ大統領の個人的な尽力がプロジェクトの迅速な進展に不可欠だったと述べ、誕生日のお祝いの言葉も贈った。二国間関係についても言及し、アスワン・ハイ・ダム建設など数十年前からの深い関係に触れ、現在はスエズ運河経済特区内のロシア工業団地設立や貿易の拡大など、戦略的パートナーシップが継続していることを強調した。そして技術と安全にも言及があり、最新の技術と環境基準を採用していること、およびロシアによるエジプト人スタッフへのトレーニング提供について言及した。また、原子力技術の医療や農業への応用可能性も示唆した。世界の海運においてスエズ運河の占める役割は極めて大きいため、その領域でロシアが経済的な影響力を強めていることは、西側諸国にとって極めて憂慮すべきリスクとして捉えられるだろう。また、ロシアは北極海航路の開発も進めており、日本のような海運に依存する国家にとって、世界の海運におけるロシアの影響力拡大は極めて重大な意味を持つだろう。
エジプトの電力事情
エジプトでは2023年夏以降、猛暑による冷房需要の急増と燃料不足が重なり、大規模な計画停電が実施された。原因は国内発電の約8割を占める「天然ガス」の生産量が減少し、国内需要に追いつかなくなったことが最大の要因とされる。この背景には急速な人口増加があり、特に都市人口の急増が顕著であるのに対して、送電網も発電力もその急拡大に追い付いていない。影響として一時は1日あたり数時間の停電が常態化し、市民生活や経済活動に大きな影響を与えた。緊急対策として政府は2024年から2025年にかけて、急遽LNG(液化天然ガス)の輸入を増やしたり、近隣国(イスラエルなど)からのガス供給を確保したりするなどの緊急対応に追われている。
エジプトのエネルギー構造と対ロシア関係
さらにエネルギー構造の課題も深刻な問題だ。エジプトの電力は長らく、自国で豊富に採れていた天然ガスによる火力発電に依存してきましたが、その構造が限界を迎えている。天然ガスの枯渇懸念がその最たるものであり、国内ガス田(ゾハール・ガス田など)の生産量が予想より早く減少しており、かつてのような「ガス輸出国」から「輸入国」へと転落しつつあるのが現状である。また外貨不足により、燃料を輸入に頼ることは段々と困難になっているだけでなく、エジプトが抱える外貨不足の問題をさらに悪化させるリスクが指摘されている。この点において、ロシアとの関係強化は天然ガスの産出国であるロシアから安価にエネルギーを調達する狙いもあると考えられるが、しかしエジプトは米国とも近年は関係を深化させており、ロシア産の天然ガスの大規模輸入には政治的な困難も付きまとうことから、アメリカによる対ロシア制裁の緩和は間接的にエジプトのエネルギー事情を好転させる可能性を孕んでいる。
参考
エジプト政府公式発表/https://www.presidency.eg/en/%D9%82%D8%B3%D9%85-%D8%A7%D9%84%D8%A3%D8%AE%D8%A8%D8%A7%D8%B1/%D8%A3%D8%AE%D8%A8%D8%A7%D8%B1-%D8%B1%D8%A6%D8%A7%D8%B3%D9%8A%D8%A9/news19112025